株式会社新潮社 (Shinchosha Publishing Co, Ltd.) – 『藝術新潮』新潮社, 1961年7月号
武満徹という作曲家をご存知でしょうか。わたしは若い時から好きで聴いたり、著作を読んだりしてきました。世界的な作曲家で、日本を代表すると言われますが、一般にそれほど知られてはいないかもしれません。
武満徹は難解な現代音楽を創造しましたが、一方で映画音楽を多くつくり、また、「うた」と題された親しみやすい文字通りの歌があります。
武満徹の音楽の根底には、戦時中の勤労動員で隠れて年長の兵隊に聴かせてもらったシャンソンがあり、難解な現代音楽の背景には常に歌があるのでした。
また、娘の武満眞樹さんはメディア等で、家庭での武満徹の様子を伝えてくださっていますが、よく歌を口ずさんでいたということでした。
武満徹はどんなに巨大な複雑な音楽をつくっても、歌を失うことはありませんでした。人間の根源的な衝動として口をついて出る歌はあるのだと思います。
武満はとても自由で、多くの他芸術の友人を持ち、世界中の芸術の動向に興味を持ちました。どこにも所属しないで生きるということを自身に課していました。大学で教えたりもしませんでした。
こうした武満徹の精神から当教室は学びたいと思っています。歌うことを大切にし、様々な音楽教育の理論を学びながらも、一つにこだわることなく、創造性ある取り組みをしていきたいと思います。