音楽を何のためにするのか、考えてみましょう。好きだから、楽しむため、そう考えた方は、もうこの先を読む必要はないかもしれません。それが究極の答えです。ただ、なぜ好きか、何が楽しいのかと問うと、答えは一つではありません。また、わたしは好きだから、楽しむため、よりも別の答えを持っています。それは最後に言います。
まず音楽は自発的でないと好きにならないし楽しくありません。ピアノが弾けるのだけどまったく楽しそうでない人はたくさんいます。多くの人が学校の音楽の授業は苦痛だったと言います。わたし自身音楽の授業をしたことがあるのですが、教えてる方も苦痛でした。(笑)なぜそうなるのかと言うと、自発的でないからです。教えるほうも、教わる方も。音楽は衝動です。空気の振動は、まず自分から出ます。そのエネルギーは、自然な心身の活動からしか出てきません。
ところで、最初に音楽をした人類は、なぜ、どのように音楽をしたのでしょう。人間は小さい集落で暮らしていました。伝達のために言葉が発達しました。わたしは音楽より言葉の方が先だと思います。しかし、感情が発達するにつれて、一人で何か世界や自分について発したくなったのではないでしょうか。声を出したり木を叩いたりして。空気を振動させることで、生きているという実感を持ちたくなったのではないでしょうか。何か強い恐怖にさらされ、それがなくなったとき安堵や神への感謝から歌を歌ったかもしれません。集落から離れ孤独になったとき、一人で歌うしかなかったかもしれません。集落で協力して獲物を獲る必要が大きくなったとき、声を合わせて、勇気を奮い立たせたかもしれません。これらは、人間の根源的な感情以前の深い心の動きからくる、生の実感です。それを音として外に出して、自分と世界をつなぐ空気を振動させる。その振動が世界にも自分にも広がっていく、そうして生きている実感を音楽に求めたのではないでしょうか。だから、なぜ音楽を人がするのかというと、生きている実感のためとわたしは考えています。
もちろん、人前でピアノを弾いて自慢したいということがあってもいいですけど。